3日目・莫高窟

今日は一日、莫高窟を見て回ることになっている。莫高窟といえば、砂漠の大画廊とも言われる中国屈指の石窟群で、その多くの仏像・仏画から「千仏洞」とも呼ばれる世界最大の仏教石窟群で、いわずとしれた世界遺産で、まあ一言で言えば今回の旅のメインである。

莫高窟は昨日訪れた鳴沙山の東端の断崖に彫られた石窟群で(どうやら鳴沙山というのは延々続く山みたいだ)、敦煌の街からは約25キロのところにある。

伝説によれば五胡十六国時代の366年に鳴沙山を訪れた僧が金色の千仏を見て石窟を作り始めたと言われている(近くの三危山に仏の姿を見て対岸の鳴沙山の断崖に彫ったんだという説もある)。
地球の歩き方などの日本で買った本によると「492の石窟」が確認されているとあるけれど、これは壁画や塑像のある石窟の数で、現地ガイドさんによると、最近では僧が暮らした「僧院も合わせて735の石窟がある」と説明しているとのこと。

莫高窟の石窟の中で、一番古いものとされているのは5世紀前半の北涼期(五胡十六国時代)で、その後、北魏、隋・唐、五代十国、宋、西夏、元と延々1000年に渡って石窟の造営が続いたというから凄い。中国の各王朝の美術史が詰まっているような場所だ。
朝8時にホテルを出てからバスで30分くらい、ゴビ砂漠の中に緑が見えてきた。
莫高窟は、オアシスの中にあるらしい。確かに、オアシスじゃなきゃ、いくら僧でも住めないな・・・。

手前の駐車場でバスを降りて、高層の供養塔とかを見ながら少し歩くと、乾ききった河にかかる橋に出る。
この川は大泉河というらしい。う〜〜ん、名前負け?それとも時期によっては水量が多くなるのかな。

まあ、現在、河は乾ききってるけれど、向こう岸は緑が広がるオアシスとなっている。
緑のはてには僧たちが暮らしたという石窟群がかすかに見える。




橋を渡ると、急に緑が濃くなる。オアシスって凄いなあ。

最近作られたらしいでっかい天女の像とか、こんな門があって、さあ、いよいよ、莫高窟ですよ〜という雰囲気を盛り上げております。

ということで、わくわくなのだけど、添乗員さんや現地ガイドさんから、莫高窟の観光には、色々と制約が多いということの説明が繰り返される。

カメラの持ち込み禁止というのは、もう何回も聞いた。
大きなバッグも禁止。はい。小さなウエストポーチを用意してます。
でも、それだけではない。



まず、開放されている石窟自体がごく一部である。研究や補修・保護のために閉まってる石窟も多く、どの石窟が開放されているかは当日にならないとわからないことも多いらしい。
しかも、見学にはガイドがつき、そのガイドが選んだものをガイドの考える順番で見ていくんだそうだ。つまり、お客にはどの石窟を見るかの決定権がないということ。

さらに更に・・公開窟には一枚の入場券で見られる一般窟の他に、見学するのには特別料金がかかる特別窟というのがある。しかも、この特別窟、一つ一つの石窟ごとに料金が取られるんである。料金は100元から200元くらいのものが多い(一番高いのは500元とか言ってたなあ)。ちなみに1元は15円(2006年5月)なので、1500円から3000円ということ。5つくらい見れば1万円になっちゃうわけだ。しかも、はっきりいって、莫高窟の石窟の中で有名なものは、ほとんど特別窟なんである。あこぎな商売と言わずしてなんとしよう。


とはいえ、やっぱり、楽しみ〜。

上の写真の門から、ちょっと歩くと、いよいよ莫高窟。
これが莫高窟の外観。

ずらずらと石窟が並んでいる。

大体、3階建てくらいかな・・・。

写真を見ればお分かりのように、柵があって、あの中に入ると、もう写真撮影禁止。

だから、外から撮ってみる(笑)。
まあ、見どころは、もちろん、この石窟の中なんだけど。


これが有名な96窟。

莫高窟のシンボルとなっている九層楼。
この中に、莫高窟のなかで最大の大きさの弥勒大仏(34.5m)がある。

ここで記念撮影をするのが定番らしく、撮影をしてから、いよいよカメラを預けて中に入る。

ガイドのリュウさんと合流して、いよいよ見学開始。

リュウさんの方針では、午前中は一般窟を見学して、午後、食事の後に特別窟を見るとのこと。

で、まず、目の前の96窟に。
96窟は唐の則天武后の時代に作られたもの。女性でありながら強引に皇帝になった彼女は「自分は弥勒仏の化身だから皇帝になってもいいのだ〜」との理論武装を行ったとのことで、この時代、弥勒仏が多く作られたらしい。

この弥勒仏、でっかくて見上げるばかり。う〜ん、指の動きとかがきれいだとは思うけど、後の時代の修理がかなりなされていて、美術品としてはどうかな、という感じである。

でも、次に行った130窟は良かった。ここには高さ29mの唐の時代の大仏(96窟より南にあるので南大仏と言われているらしい)があるのだけれど、ほとんど後の時代の補修がなされていないので、唐の時代のままの姿を見ることができるし、大仏の左右には15mもの大きな菩薩像や、2mという敦煌最大の飛天が描かれていて素晴らしい。

リュウさんについて次々と石窟を見ていく。
涅槃仏があり涅槃経変・阿弥陀経変の壁画が見事な148窟。

反弾琵琶(一種のアクロバットで琵琶を背中に回して弾くというもの。これは敦煌のシンボルになってる)の壁画がある237窟。

北魏時代の壁画が残る257窟。

隋の時代の飛天が美しい427窟。

莫高窟最大の中心柱窟(中心に柱を置き、その四方に仏像を置くもの)で、釈迦の前世の物語(飢えた親子の虎のために、自分の身を捧げるというお話)の壁画がある428窟。

そして、1900年に敦煌文書が発見された16窟・17窟。ここは16窟の広さと、文書が発見された17窟の狭さが対照的で面白い。井上靖の小説で西夏の侵略から守るために、大量の文書等を運び込み、壁を埋めて隠したとされる17窟は覗き込むことしかできないけれど、とても狭くて、どうやって大量の文書を隠したんだろうなあ、という印象。

宋代の29窟を見学したところで午前中のリュウさんの説明はおしまい。ざっと2時間半かな。これから近くで食事をするというけれど、どうせだからということで未完成の壁画が残るという26窟をおまけに見学

一般窟を見た感想・・・・130窟と148窟は良かったな。でも、他は、ちょっと今ひとつ。16窟・17窟は敦煌文書が発見されたという歴史的価値ということで別格なんだろうけどさ。
隈取の輪郭線が変色して独特の雰囲気を出している北魏時代の壁画なんかは興味深いけれど、ほとんどの石窟内の仏像が清代に補修されて台無しにされているのが痛い。

・・・こんな雰囲気を読んだのか、昼食のとき、添乗員さんから、こんな一言が・・

午後の特別窟の見学を追加しましょうか?
!!

追加OKなんですかっ!?

ええ追加料金が取られますけど、ご希望の方がある程度集まればガイドさんに交渉して・・

それじゃあ、45窟!45窟!45窟!

と絶叫するわたし。はい、声の大きさで採用してもらいました。追加料金200元。

実は今回のツアー、特別窟のうち「美人窟として有名な57窟、『張議潮出向図』の残る晩唐時代の156窟、敦煌初期の窟で交脚弥勒菩薩のある275窟、中国古代神話をモチーフにした285窟」を見学するというのが売り込みで、それなりのセレクトかとは思っていたんだけど、唐代の塑像で有名な45窟が漏れてたのがちょっと不服だったのであります。追加で見られるとはらっき〜。
そして、午後の特別窟観光・・・・午前中の不満を一気に解消するくらい素晴らしかった。

一般窟と特別窟、どれくらい差があるか、というと・・・

これが一般窟の入場券


で、こっちが特別窟の入場券



一般窟の入場券は西魏時代の壁画(249窟)で、もちろん優れているから入場券に選ばれたんだろうけど、それでも、やっぱり違うよね(特別窟の入場券は220窟の壁画)。

特別窟のレベルは本当に高かった。

まず、壁画については水準が高いだけでなく、保存状態がいいものが多い。実は敦煌の壁画は変色してしまっているものが多くて、肌の色が黒くなってしまってるのがほとんどなのだけれど(上の一般窟の入場券の人物像をご覧あれ)、特別窟の壁画は当時の色彩を残すものも多い。

それと、塑像についても素晴らしいものが多かった。一般窟は壁画がまあまあでも塑像が清代の補修で印象が台無しにされてるものとかが多いんだけど、特別窟の場合は当時のままのものが多くてうれしい。

写真撮影が一切禁止されているので、敦煌で買った絵葉書からご紹介(甘粛文化出版社出版発行、敦煌・壁画)。
下の写真はどちらも「美人窟」として有名なもの
左下は壁画が美しい57窟(唐)。右下は塑像が美しい45窟(唐)
57窟は小さな窟なのだけれど、莫高窟で一番美しいと評判の菩薩像の壁画で有名。入って左側の壁面に描かれている。初唐の壁画で、他の仏達はみな変色してしまっているのだけれど、この菩薩の周囲だけがなぜか奇跡的に変色していない。菩薩は化粧を施した美しい貴婦人の姿で、装飾品の金色も素晴らしく繊細(150元)。

45窟は釈迦を真ん中に左右に弟子・菩薩・天王が並ぶ。盛唐を代表する窟とされ、左右の菩薩がそれぞれ、とても美しい。上の写真は右側の塑像。この菩薩が好きか、左側の菩薩が好きかは、結構好みが分かれるみたいだ。菩薩が美しいだけでなく、釈迦の左側の弟子阿難像も盛唐塑像の最高傑作として名高いらしい(200元)。



275窟は莫高窟の石窟の中でも最も古いものの一つ(北涼時代)で、西域の香りが高いステキな窟だ。
右の写真(絵葉書)は一番奥にある本尊で「交脚弥勒菩薩像」と呼ばれているもの。名前の由来はご覧のとおりに足を交差する形で座っているところからきているのだけれど、これはギリシャやペルシャの王族の座り方なんだそうだ。高さ3,34mということで、結構大きい。

菩薩の座る椅子の背もたれのところにはペルシャ風だという3角形の飾りがつき、左右の足元には獅子がいる(愛嬌があって、とても獅子には見えないけど、獅子なんだそうだ)。

この275窟は、左右の壁に宮殿風の龕があって、そこにやはり足を交差させた仏達が並ぶ。
一番手前の左右の龕には木の下で瞑想する弥勒が彫られている(150元)。



156窟は、晩唐の時代のもので、張議潮出向図とその夫人の出向図で有名。下の方にはスポンサーの男女の像が描かれていて当時の風俗が分かりやすい。ロシア革命時の難民が煤で壁画を汚してしまっているのが残念(100元)。



285窟は西魏の時代のもので、ここの天井画は中国古来の神仙思想を思わせるもので面白い(200元)。

風神・雷神や伏義などが描かれているほか、飛天の中に飛仙がまじっていたり、なんとヌードの飛天まである。

もちろん仏教壁画もある。
右の写真(絵葉書)は仏教説話を描いたもの。できれば神仙思想の壁画部分を紹介したかったんだけど、わたしが買った絵葉書にはなかったので・・・。




ということで、約1時間半の特別窟の観光も終了。他にも涅槃窟として有名な158窟や壁画の見事な220窟なんかも見たかったな〜。でも、かなり満足。


リュウさんに連れられて、近くにあるお土産屋さんというかなんというか(研究所の施設?)に向かう。
ここでは57窟の菩薩の模写とか写真集とか絵葉書とかが色々売っている。日本円もOK。多少は値引き交渉にも応じてくれます。

写真集はここが一番充実していた気がする。模写もここのものは研究員が描いているだけあってレベルが高い。確実に良い物を買いたい、というのなら、ここで買うのがいいんじゃないかな。

私が買ったのは左の写真集。150元でした。
結構高いけど、写真も日本語の解説もかなり充実していると思う。結構、お奨めの品です。
表紙の写真は午前中に見学した130窟。かなり雰囲気出てます。

ちなみに、この写真集は130窟が表紙だったけど、敦煌のお土産のほとんどは45窟の菩薩か57窟の菩薩なので、この2つを見ていないと少し寂しい思いをするかも。



☆莫高窟観光情報☆

莫高窟観光で、ちょっと気が付いたことをメモ

必携品
その1 懐中電灯
発光ダイオードだっけ?あれを持ってる人の光が一番きれいだったかな。
特に57窟の菩薩は白い光で見たとき、より一層きれいだった

その2 小さなバッグ
大きなバッグは持ち込めない
貴重品を入れるウエストポーチ大のバッグが必要。

その3 ちりがみ(笑)
トイレは外にあるけど、中国のトイレですから・・・。
(これは莫高窟に限らず中国ならどこでも・・ですね)


見学情報

その1 余裕があったら、特別窟見ないと絶対に損。
一般窟だけで帰るのは余りにもったいない。
できれば事前に見たい窟を調べて問い合わせておいたほうがいいと思う。
(結構高いんで料金もチェックすべき)

その2 仏像、壁画は座ってみるのがおすすめ。本来、座って拝むものだから
視点が低くなると随分と印象が変わるものです
(これは日本の仏像を見るのと同じだけど)

その3 飛天に注目
難しいことが分からなくても、飛天に注目するだけでも楽しめる
古い飛天は重そうだけど、次第に重力から開放されて、空を自由に飛ぶようになっていくのが見ていて楽しい

その4 かなり歩きます
階段の上り下りが想像以上に多いので、足が弱い人は気をつけてね

ということで、ゆっくり莫高窟を観光して,町で両替したりして(特別窟の200元追加は大きかった)ホテルに戻ったのは4時ころ。ゆっくりお風呂に入ってから夕食を食べに出た。

明日は結構遠出をすることになっているので、早く寝なくては〜。


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