ウシュマル
ウシュマルはユカタン半島の西よりに位置する都市遺跡。800〜1000年ころに栄えていたとされる。
もともとは雨神チャックを祀っていたこの都市に10世紀ころメキシコ高原出身のシウ族が入ってきて、ケツァルコアトル(羽毛のある蛇)の信仰を強制するようになったともいわれるが、この遺跡はマヤの遺跡でありながら、なぜか文字がほとんど発見されていないので、その歴史には不明な点が多い。
しかし、ウシュマルの華麗な建造物は、この都市が周囲の政治的・宗教的中心地であったことを雄弁に物語っている。プウク様式といわれる平らな屋根をもった箱型の建造物は華麗なモザイクで埋め尽くされ、建築家ライトをはじめとする多くの人たちに賞賛されてきた。
魔法使いのピラミッド
遺跡を入ってすぐに目にするのが、魔法使いのピラミッド。
楕円形のピラミッドは、貴婦人のスカートとも称されるように、ひたすら優雅である。
これは後方から眺めた姿。
裾が広がったような曲線の美しさは、ためいきがつくばかりだ。
伝説では、卵から生まれた小人の魔法使いが一夜で作ったということになっているが、実際にはマヤの多くの建造物のように神殿の上に神殿を作るということが繰り返された結果、現在の形となったもの。
これは前面から見た魔法使いのピラミッド。
頂上の神殿に登る階段はティカルのそれよりも怖いと噂された急勾配。
現在は登れなくなっているが。
この神殿の入口は雨神チャックの顔を模したもの。
階段の両脇にもチャックの顔が無数に飾られていて、雨に対するウシュマルの人たちの強い思いが伝わってくる。
尼僧院
魔法使いのピラミッドの隣に位置するのが尼僧院と呼ばれる建造物。
中庭を囲んで四方を建物が取り囲んでいる構造になっている。
実際にはエリートの住居・宮殿だったらしい。
ともかく、ここのモザイクは見事で、フィルムがあっという間に消えていく。
四方の建物の意趣は全て違うのだが、不思議な統一感があって、装飾華美とか、くどい、という印象を受けないのが見事。
統一感といえば、尼僧院を構成する4つの建物は、どれも入口のある下部には装飾がなく、その上の部分にモザイクが施されているということが共通である。これがいわゆるプウク様式。
最も、モザイクについては、各建物毎に異なっているのだが。
モザイクの内容としては、マヤに伝統的な雨神チャック(下右)のほか、羽毛ある蛇(下左)といったトルテカの影響があるものも認められる。羽根飾りをつけた貴人なども目に付く。
そして、その背景に埋め尽くされた十字紋・格子文様等々。
球戯場
尼僧院を出ると、球戯場が正面に見える。
とはいえ、この球戯場は、あまり大きくないし、修復も進んでいない。
球戯場を抜けると、総督の館・亀の家・大ピラミッド・鳩の家と呼ばれる建造物が密集する南グループである。
一段高くなっているところに、総督の館や亀の家が小さく見えるのだが、わかるだろうか。
提督の館
総督の館はウシュマルで最も大きな建造物である。
この建造物は大きな広場に面した人工の基壇の上に建っているのだが、その基壇の大きさは縦180m、横153mという巨大なもの。
左の写真は、せいぜい半分か3分の2くらいしか写せていない。
かなり大きいのだ。提督の館という名前が付けられるのも分かる気がする。
しかし、大きいだけではない。この提督の館は、尼僧院と並びマヤ建築で最も美しい建物と言われている。
提督の館も、下部にはモザイクがなく、上部をモザイクで飾るという尼僧院と共通のデザインである。
モザイクも、渦巻き模様・格子模様・巨大な頭飾りをつけた人物像・チャック・蛇など、尼僧院と同じようなテーマのものが多い。
左は総督の館の中央部分。
巨大な羽毛の頭飾りをつけた人物像が座り、その上部には幾つものチャック神の頭部が並んでいる。
このモザイク模様は、強い日差しで影を作り、なんともいえず美しい。
前にいる人々から建物の大きさがわかると思うが、かなり巨大な建造物である。
ガイドブックによると、中には横18m、奥行き5mの大部屋をはじめとする、たくさんの部屋があるのだそうだ。
エリートの居住区か、宗教的行事を行ったらしい大きな広場に面していることからするならば政治・宗教の場であったのか。
いずれにせよ、ウシュマルで重要な建造物であったことは間違いない。
提督の館を正面から見ると、左のようなマヤアーチが2箇所見える。
このアーチが建物にリズム感を与えているのだが、近くに行って覗き込むと、このアーチは飾りで、中には部屋がない。
メキシコで買った本によると、これは当初別々だった幾つかの建物を結合するためにマヤの建築家が生み出した手法なのだそうだ。
実際、正面から見ても、一つの建物にしか見えないが、2つのマヤアーチがあるということは、少なくとも、当初は3つの別々の建物だったのだろうか。
いずれにせよ、このアーチの生み出す効果は、マヤの建築家の予想通りというべきか。
亀の家
提督の館のすぐそば、球戯場を見下ろす位置にある小さな建造物。
なぜ、亀の家と呼ばれるかというと、建物の上部に亀の石彫りがあるから。
左の写真の建物上部に、丸っぽいものがいくつも写っているが、これがそばで見ると亀なのだ。
亀も、マヤでは雨に影響するものとされていたので、ここで雨乞いの儀式が行われたのではないかとされている。
ここからは、球戯場・尼僧院・魔法使いのピラミッドがよく見えるので、撮影ポイントの一つでもある。
鳩の家
提督の館から大ピラミッドを挟んで遺跡の一番南西にあるのが、鳩の家と呼ばれる建造物。
名前の由来は美しい屋根飾りが西洋人には鳩小屋に見えたから、ということらしい。
この建造物は美しい壁しか残っていないのだが、実は階段状の神殿群の一部らしい。
というのも、この美しい壁の右側と左側はそれぞれ広場になっていて、右は低く、左は高くなっており、左奥の一段高いところには神殿が残っている。つまり、階段のように、いくつもの広場が並び、その一段ごとに、このような美しい建物が建てられていたことになる。
往時はウシュマルでも有数の規模と美しさを誇る建造物だったのではないだろうか。
大ピラミッド
大ピラミッドは、提督の館と鳩の家に挟まれる位置にある。
「大」ピラミッドと呼ばれているが、高さは32mで、魔法使いのピラミッドの高さが38mだから、高さでは負けていることになる。
しかし、現在ではウシュマルで登れるピラミッドとしては唯一のものだし、登ったときの眺望はすばらしい。
上部の神殿にはチャック神の頭部像もある。
大ピラミッドから見た、尼僧院と魔法使いのピラミッド
わたしは、ウシュマルには2002年12月と2004年8月に訪れたのだが、2回目であっても、最初と同じように興奮してしまった。ともかく、美しい。
パレンケのように人の気配がしないのは、少し寂しいが、これだけ綺麗な遺跡は、そうはないと思う。そのうち、3回目もありそうな、そんな予感のする遺跡。
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